中華そば処 琴平荘
店主プロフィール
掛神 淳 店主
旅館『琴平荘』(現在は完全休業)の冬場の閑散期対策として『中華そば処 琴平荘』を始めて現在19期目。
ラーメンに限らず様々な店を食べ歩き、完全に独学で現在の味を作り上げたという。
週末には昼営業のみで、全国から1日500人が訪れるという超人気店へと成長させた名店主。
店舗情報
<住所>
〒999-7463
山形県鶴岡市三瀬己381-46
<営業時間>
10月1日~5月31日の11:00~14:00
木曜定休
※6月1日〜9月30日は休業
<公式HP>
https://soba.sanze.jp/
ー暴風雪の中、なんとか辿り着きました…本日はよろしくお願い致します!
よく来ましたね!
飛行機も電車もほとんど止まってるし今日は来ないと思ってましたよ。執念がすごいね笑。
ー正直、ここまで過酷だとは思っていませんでした…果たして今日東京に帰れるのかどうかも怪しいです笑。
帰れないですよ多分笑。うちと東京を結ぶ陸路だと新潟ルート、山形ルート、仙台ルートがあるけど、新潟ルートは絶対に雪で止まるからやめたほうがいいね。他もどうなるか…
ーそこも執念で何とかします!ということで早速インタビューへ…まずは6年ぶりのラーメン大賞、ならびに殿堂入りについて率直なご感想をお聞かせください。
嬉しい…というよりも「助かった」っていう思いのほうが強いですかね。
去年の4月に緊急事態宣言が出て県外のお客さんが全く来なくなったんですよね。それでうちは例年なら5月31日まで営業してるんですけど、前倒しで4月9日に閉めることにしました。
ー振り返るとご英断だと思いますが、当時は今より先行き不透明で不安でしたよね。
何より従業員の生活がありますからね。急に辞めてとは言えない。
そんなときに宅麺さんが「週500食でも1000食でも作ってください!」と言ってきてくれたんですね。
それまで週100食くらいしか出荷してなかったんだけど、それだけ受け入れてもらえて本当に助かりましたよ。命の恩人。今回の受賞は嬉しいし光栄なんだけど、とにかく助かった、ありがたいっていう気持ちが強いね。
ーこちらこそ大変お世話になりました。この一年は少し特殊でしたが、普段『宅麺.com』を利用していてよかったと感じることはありますか?
うちに来たくても来られない遠方の人に食べてもらえるのはもちろんありがたいよね。
それは大前提として、一番は「安定した仕込みができること」じゃないですかね。
ーといいますと?
例えば200人分仕込んでも100人しかお客さんが来なかったら100人分余りますよね。余って捨てるのはもったいないからって仕込みの量を変えると今度は味が変わるんですよ。
ー同じ比率の材料で作っても同じ味にはならないのでしょうか?
絶対にならないですね。大きい寸胴と小さい寸胴で作るのでは全く違うものが出来上がるし、アルミとかステンレスとか、寸胴の材質によっても火加減が変わるし味がブレちゃう。
ブレを抑えるには一定の量を毎日仕込むのが大事なんです。宅麺さんに加盟してからはブレを抑えられる上に廃棄も出なくなって一石二鳥。
もし加盟していなかったら大変なことになってましたよね。痛感してます。
ー「味の安定化」や「廃棄の減少」にも宅麺が一役買っていると!確かに何度食べても「中華そば(あっさり)」は絶品です…特に麺は唯一無二だと感じました。
うちは超多加水麺で加水率はギリギリ上限いっぱいの54%。うどんなんかは手捏ねで50%とかあるけど、52%超えると1%上がるごとに製麺の難易度が格段に上がりますよ。
ー加水率54%はラーメンとしては驚異的ですよね。なぜそこまで水を加えるんですか?
食感が違うからですよ。うちの麺は、硬めに茹でるとプリプリとした弾けるような食感で、柔らかめに茹でるとモチモチとしたコシのある食感になりますね。
ーまさに琴平荘のラーメンでしか味わえない食感ですね。小麦粉の袋が壁に飾ってありますが、専用粉を開発されたんですか?
そうですね。パン用粉(強力粉)が好きで、昔はパン用粉と準強力粉を混ぜて使ってたんだけど、ある時ミキサーだと粉は混ざらなくてムラができる事がわかったんですよね。ミキサーは水と粉を混ぜるためのものだから。
ー言われてみればそうですね。専用粉を作ればブレンドする手間もなく、安定した品質を保てそうです。
すごく楽になりましたよ。
ただ前に、いつものように製麺をしてたら25kgの粉に対してビールグラス3分の1ほどの水分量の違いが出て、おかしいと思って製粉会社に伝えたら粉の生産ロットが変わっていたということがありました。
ー100mlあるかないかですよね…そんな僅かな差に気が付くんですか?!
乾燥がいつもよりちょっとだけ足りてなかったから、水を減らす必要があったんですよね。
向こう(製粉会社)に伝えたら「厳しすぎます…その差なら許容範囲として勘弁してください。」って言われちゃったけど笑。
ー並々ならぬ製麺への情熱を感じますね…全国からお客さんが押し寄せる理由が少し分かった気がします。ここにたどり着くまでにはどのような苦労がありましたか?
旅館が倒産しかけの中で一発逆転を狙って始めたラーメンだから、最初の数年は本当に大変でしたよ。やっぱりお客さんが来なくて経営が成り立たない、利益が出ないっていうのが一番の苦労。
麺の作り方がどうとか、スープがうまくいかないとかそういうのは苦労じゃない。あくまでも“難しかったこと”であって、“苦労”と呼んではいけないですよ。
ー数々の苦難を乗り越えられたからこそ出てくる言葉だと思います。では、より美味しいラーメンを作るために心掛けていらっしゃることはありますか?
食べ歩きだね。これが一番大事。食べ歩き辞めたら商売辞めたほうがいいと思いますよ。これはラーメンに限らず全ての飲食業に言える。
ー掛神さんのブログを拝見しましたが、確かに数々のお店を食べ歩いていらっしゃいますね。
ラーメン屋だからといってラーメンだけを食べ歩いても井の中の蛙になっちゃってダメだから、和食、フレンチ、イタリアン…とにかく色んな料理からヒントを貰って知恵を絞る。
あとは旨いものを食べてたら舌が肥えてくるでしょ?そうやって自分の舌のレベルを上げることで、自分の料理を試食したときに厳しい評価ができるようになるんです。
そうすると味のレベルも上がってきますから。
ー確かにおっしゃる通りですね。オフシーズン(6月〜9月)は全国を食べ歩いていらっしゃるんですか?
6月はすぐ東京に行って、指折りの名店店主たちと交流ですよ。もちろん食べ歩きと宴会も兼ねて。
逆に全国から店主仲間を招いて“琴平合宿”を開くこともありますよ。みんなで宴会して雑魚寝してワイワイと。
ー“琴平合宿”は旅館ならではですね!他にはどんなことを?
7・8月はあご(トビウオ)の仕込みだね。全部自家製で作ってますから。
9月は例年だったら百貨店の催事にちょこちょこ参加したりして、後は次のシーズンの準備期間ですよ。
ーオフシーズンも全てラーメン作りに繋がっているんですね!
ーまだまだお話を伺いたいところですが、帰りの電車が近づいて参りました(切実)…今後の目指すところがあれば教えて下さい。
今は出口の見えない長いトンネルをどう切り抜けるか、淘汰されないように生き残れるか、それだけです。
言い方は悪いけど、目標も夢も希望も今はない。とにかく今を乗り切ること。
淘汰されずに耐え忍んで、辛抱すれば良いときが必ず来ると信じてますよ。
ーまた琴平荘が大賑わいを見せる日が楽しみですね。最後に『宅麺.com』をご利用いただいているお客様へメッセージをお願い致します!
お店で食べるより価格は高いし、送料もかかるのに、うちの味のファンになってリピートしてくれるのは本当にありがたいです。これに尽きます。
ただ交通費を考えれば宅麺さんは本当に安いと思いますよ。特にうちなんかは東京からだと往復12時間で3万円くらいかかっちゃうから。
…これは言わされてないから最後に書いといてください笑。
ー掛神店主、ありがとうございました!
※無事、インタビュー当日に東京へ帰ることができました。
おまけ
ー今回の取材スケジュールをざっくりご紹介!
5:00
起床。
5:30
自宅を出発。
7:00
大宮駅に到着。新幹線で山形へ。元気そうです。
10:00
山形駅に到着。バスに乗り換え鶴岡市へ。
12:00
中継地点「庄内観光物産館」に到着。小腹を満たしつつローカルバスを1時間待ちます。とにかく暴風雪で寒い。
13:00
「庄内観光物産館」を出発。ローカルバスで『中華そば処 琴平荘』の最寄りのバス停・三瀬へ。
13:30
『中華そば処 琴平荘』に到着!海沿いの風は半端じゃないです。営業時間ギリギリで頂いたラーメンは言うまでもなく絶品!!
14:30〜15:30
インタビューおよび撮影。暴風雪のためバスの時間まで室内で待たせていただくことに。
16:00
最寄りのバス停・三瀬を出発。行きと同じルートを戻り、山形駅を目指します。
18:30
山形駅に到着。この時点でもうクタクタです。またも乗り継ぎで1時間待機。
19:30
山形駅を出発。新幹線では見事に爆睡。
22:00
大宮駅に到着。ここから家まで更に1時間半。
23:30
帰宅。即ベッドに倒れ込みました…。