同業の方に選んでいただいたことが素直に嬉しい
ー今年から開催した「Japan Best Ramen Awards」にて見事3位を獲得されました。
こちらの賞のコンセプトが「ラーメン店主が選ぶ本当に美味しいラーメン店」というもので、「八雲」の名前を挙げる店主さんが多く、この度見事第3位に輝きました。
まずは率直な感想を教えてください。
これは本当に嬉しいですね。
もうめちゃくちゃ嬉しいです。
選んでいただいたのが同じラーメン店を営んでる店主さん達ですからね。
苦労とかも皆さんわかってらしゃると思いますし、そういった点含めて本当に嬉しかったです。
ー2021年はほとんどコロナ一色で、思い通りに行かなかったことも多々あったかと思います。
稲生田さんにとって昨年はどのような1年でしたでしょうか?
そうですね。
特にこれといって大きな変化はなかったんですけど、宅麺さんからの注文が急増したのが大きな変化だったかもしれないですね。(笑)
お店の方はおかげさまでたくさんの方に来ていただいて、夜の時間短縮などもありますけど特に大きな変化なく営業することができています。
ーコロナ禍でもあまり大きな影響は受けずに営業できているのが何よりですね。
宅麺のお話を挙げてくださいましたが、冷凍通販を始めた当初、抵抗などは特になかったのでしょうか?
それは特になかったですね。
それよりも全国の方に食べてほしいという想いの方が強かったです。
おかげさまで食べていただく機会が増えましたし、これからもたくさんの方に食べていただきたいですね。偶然興味を持ったラーメンの世界
ーそれではここで稲生田さんのラーメン店主に至るまでのご経歴を教えてください。
上京してきたのが18歳くらいの頃でしたね。
当時は服飾の専門学校に通ってました。
ただ、専門学校に在学している時も飲食店でバイトしていることが多く、卒業後も在学中からバイトしていた代官山のBarで働き始めました。
洋服の勉強をしてましたけど、飲食の方が面白かったんですよね。
でもせっかく洋服の勉強もしたからと、少しアパレルの業界にも足を踏み入れてみたんですけど、結局長くは続かずという感じでしたね。
あ!そう言えば、花屋さんで働いていた時は3年くらい続きましたね。
洋服を勉強している時からデザインとかが好きだったので、お花を生けたりというのが楽しかったんですよね。
こうして振り返ると色んな経験をしてますね。
ー本当多様ですし、美的センスが磨かれそうなお仕事ばかりですね。
今のお店の雰囲気も非常に納得です!
お花屋さんを経て、ラーメンの道に進まれたということでしょうか?
そうですね。
たまたま先輩のお好み焼き屋を手伝うことになって、そのお好み焼き屋がラーメンも始めるってなったんですよね。
それからスープ作りとかを学ばせてもらって、こっちの方が全然面白いじゃんってなりました。
ーもう本当に偶然出会ったという形ですね。
もしお好み焼き屋さんの経験がなかったら、八雲はなかったかもしれないと思うと驚きです...
ラーメンの道をスタートして、修行先として「たんたん亭」を選んだ理由をお聞かせいただけますか?
「たんたん亭」に入ったのは、たまたま募集があったからというのが大きかったですね。
僕自身「かづ屋」というお店が好きで、かづ屋を営まれている方もたんたん亭のご出身というのは知っていたので、たんたん亭なら間違いないと思って修行に入りました。
そこでは2年ほど修行させてもらいました。
修行も特に厳しいということもなく、老舗だったにも関わらず自由に色々なことをやらさせてもらいました。
ー2年間の修行を経て、ご自身のお店「八雲」をオープンされたんですね。
そうですね。
最初は目黒銀座商店街に出店しました。
当時はお店の宣伝などもせずオープンしてしまったので、数カ月はお客様もほとんど来なくて、さすがにやばいなと感じましたね。
でも、ラーメン評論家の方が紹介してくれたりメディアで取り上げられたりして、徐々にお客様も増えていった感じですね。
おかげさまで、20年以上経った今でも目黒の地で営業し続けられています。こだわり過ぎないことがこだわり
ーそれではここでラーメン一杯に対するこだわりについて教えてください。
こだわりは特になくて、いつもこの質問をされると結構困ってる部分があるんですよね...(笑)
ーすみません!
スープも無化調にこだわられており、そういった点で食材選びにもかなりこだわられているのかなと思いまして...
食材も特別にこだわっている部分はないですね。
逆に僕は、シンプルな食材で最大限美味しくするにはどうすれば良いか試行錯誤する方が好きなんですよね。
突き詰めれば食材も良いものを使いたくなるんだろうなとは思いますが、それだと一杯あたりの値段も高くなっちゃいますからね。
そうなるとお客さんにとっても良いことではないじゃないですか。
だからこれからも高級な食材ではなく、シンプルな食材を使い続けると思います。
それで美味しいと思ってもらえると、こちらも嬉しいですからね!
ー十分と言ったら大変おこがましいですが、ラーメンに対する考え方がヒシヒシと伝わるお話でした。
お店のSNSなど拝見し、限定メニューをあまりやられていない印象だったのですが、1つのメニューを磨き続けたいといった意図があるのでしょうか?
実はこれで結構いっぱいいっぱいなところがあるんですよね...
1日分のワンタンを巻いたり、スープを炊いたりと、仕込みで結構時間がかかってしまいます。
しかも限定をやってオペレーションが崩れたりしてしまったら、それも結構困るなと思ってます。
もちろん作り方など微々たるところは変わってますけど、根幹のスタイルは22年間変えていないです。
これからも大きくは変えないと思いますよ。
ー22年貫かれているという点が本当の価値だと思います。
それこそお店は女性のお客様も多く、店内の雰囲気なども女性が1人でも入りやすい空間を演出していると思います。
店内の雰囲気などは、元々インテリアが好きだったことが大きいかもしれないですね。
今のお店もコンクリートの打ちっぱなしで天井が高くて壁も広くて、自分で色々とデザインして特徴を活かしたいと思い今の形になっています。
確かにラーメン店っぽくはないんですが、これはこれでとても気に入っていますよ。とにかく「今」に向き合いたい
ーではここで少し変わった視点の質問をさせていただきます。
もし稲生田さんがこれから職業を選択される立場に戻ったとしたら、もう一度ラーメンの道を歩み、ラーメン店主になられますか?
やると思いますよ。
18〜22歳くらいに戻るってことですもんね。
子供の頃ずっとプロ野球選手になりたかったので、プロ野球選手を目指すかもなー。
でも自分の中でラーメン店主以外にやりたい仕事といったらプロ野球選手くらいなので、もう一度ラーメン店を開業すると思いますね。
もちろんこの仕事が好きでやってますからね。
ーもう一度スタートラインに戻ったとしたら、どういったジャンルのラーメンに挑戦したいとかありますか?
おそらく、今の清湯系のラーメンでお店をもう一度やると思いますね。
僕自身が作るラーメンは完成した訳ではないですし、現在進行形ですからね。
試行錯誤を繰り返す中で味の改良などを続けることが僕のやりたいことですし、そうなると自ずともう一度今のスタイルでチャレンジしたいという想いはあります。
ー稲生田さんのお考えを聞いていると、今にしっかりと向き合ってらっしゃるなという印象を受けました。
そうですね。
「ああしておけばよかった。」や「こうすればよかった。」などと後悔することはあまりないですね。
それよりも、日々全力でラーメンを提供して、やっぱりラーメンが好きだからこそ研究を続けることも全く苦ではないというのはあると思います。新しいスープに挑戦してみたい
ーそれでは今後の「八雲」として、もしくは稲生田さんご自身の目標や展望を教えてください。
そうですね。
ちょっと違うラーメンを作りたいなと思ってるんですよ。
今お店で提供しているスープはたくさんの食材を使ってますけど、もうちょっとシンプルなスープにも興味があります。
ーというのは?
例えば、鶏・豚とあと1種類くらいでスープを作って、シンプルに仕上げてみたいなと思ってます。
実はまだ全然着手できていないのですが、イメージは頭の中にあります。
以前そのイメージ通りにスープを炊いてみたらかなり美味しかったんですよ。
でもまだまだ試行錯誤は必要ですね。
ーありがとうございます!新しいスープ、私もとても楽しみにしています!
稲生田さん、本日は貴重なお話をありがとうございました!
・プロフィール稲生田 幹士 店主
浜田山の名店「たんたん亭」での修行を経て、1999年に「八雲」を創業する。
「ミシュランガイドビブグルマン」を長年受賞し続け、今や日本を代表するラーメン店の1つである。