また来たいと思ってもらえる一杯を
ー今年から開催した「Japan Best Ramen Awards」にて見事第4位を獲得されました。
こちらの賞のコンセプトが「有名ラーメン店の店主が選ぶ本当に美味しいラーメン店」というもので、「煮干中華ソバ イチカワ」の名前を挙げる店主さんが多くこの度受賞となりました。
まずは率直な感想を教えてください。
素直に嬉しかったですね。
同業である上に、有名店の店主さんから好評をいただいたというのは非常に光栄なことです。
ー新型コロナの影響などもあり、2021年は思い通りにいかないことが多々あったのではと思います。
2021年という1年は市川さんにとってどんな1年でしたでしょうか?
こんな年はなかったというくらい異例の1年でした。
極端にお客様が減ったなど目に見えた変化は全くありませんでした。
ただ、感染対策などは自分ではわからないことがたくさんありますからね。
この1年は試行錯誤の繰り返しでもありました。
ーそういった状況下で、ここは特に気を遣ったなというところがあればぜひ教えてください。
感染対策を万全にすることはもちろんですが、ラーメン店である以上、いかに美味しいラーメンを作って、お客様にまた来たいと思ってもらえるかを考えなければなりません。
来店が厳しい状況下の中でも、また来たいなと思ってもらえるためにはどうしたらいいかというのは、ラーメン作りをする上で常に考えているポイントです。ラーメンの写真を見ながら研究
ー先ほど「また来てもらいたいと思える一杯」というお話を挙げていただきました。
いい意味で中毒性のある味を作り出すには欠かせないのが「煮干」だと思いますが、市川さんご自身の煮干に対する考え方を教えてほしいです。
まず、煮干はいい意味で非常に中毒性が高いんですよね。
一般的には煮干のネガティブな要素でもある、えぐみや苦み、塩分などというのは、調理法や煮干を使用する量などを工夫することで、旨味やいい意味での中毒性に変化すると考えています。
今でこそ煮干をメインとしたラーメンはかなりメジャーになってますが、ひと昔前であれば煮干はあくまでもラーメンの味を構成する1つの食材で、煮干自体にフューチャーするという考え方は今ほど浸透していませんでしたからね。
ー現在では煮干ラーメンというものが一般的になってきていますもんね。
ただ、開業された当時(開業は2010年11月20日)は今よりも煮干ラーメンがメジャーではなかったと思います。
そういった背景や醤油や味噌、豚骨など幅広いジャンルがある中で「煮干」を始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
実は開業当初はベジポタ系をお店で提供していました。
ベジポタでお店をやっていた頃から煮干を使ったラーメンも提供していましたが、うちのお店に通ってくれていた常連さんが「煮干を専門でやるなら一度津軽に行った方がいいですよ。」と勧めてくれたんですね。
ちょうど10年前くらいでしたね。
そこで青森のお店を数軒食べ歩きましたが、それが自分にとっては衝撃だったんですね。
これを自分なりに解釈して試行錯誤してみようと思ったのが、今のお店のルーツとなってます。
ー青森県もラーメン激戦区と言っても過言ではないほど、有名なお店がたくさんありますもんね。
今まではラーメン店での修行がなく、独学でラーメンを学ばれたと伺っていました。
ラーメンを独学で研究することの大変さややりがいなど教えてください。
大変なところだと、当然レシピはありませんので、分量もありませんからね。
感覚に頼る部分が大きくなってしまうことが一番大変でしたね。
それと現在では、たくさんの方がSNSにラーメンの写真をアップしてくれるので、それも非常に参考になってますよ。
ーラーメンを食べるのではなくて、見るということですか?
はい。とても参考になります(笑)
たくさんアップされてる写真を整理しては、これはこういった食材が使われているんじゃないかと想像したりするんですよ。
とにかく自分なりに写真を見て研究していましたね。自分で食べたい一杯をお裾分け
ー先ほど独学でのラーメン作りの大変さを教えていただきました。
単発の限定メニューを除いて、メインは中華ソバのみ提供されていますが、今後もそういったスタイルは変わらず営業されていくのでしょうか?
そうですね。
最終的にはうちのお店は田舎の食堂を目指しているんですよ。
もちろんメニューを増やしてお客様に喜んでもらうというのも大切なことですが、1つのメニューが長く愛され続けるということも素敵だと思います。
田舎の食堂のように1つのメニューが愛され続けるということは大変なことですが、そこを目指していきたいですよね。
ーすでに愛されていると思いますし、平日でも大行列が出来ています。
10年以上も変わらず支持されていますが、何か秘訣などあれば教えてください。
結局ラーメンを毎日作り続ける理由って、自分がラーメンが好きだからなんですよね。
自分が食べたいから毎日作って、その繰り返しだと思っています。
極端な話、自分で食べるために作ったスープをお客様にお裾分けという感覚でもあるので、自分も食べたいと思えるような味は常に追求し続けますよね。
そういった気持ちを持ち続けられたことこそが、秘訣じゃないかなと思います。
ーお裾分け...!
意識されていることがとても素敵だと思いますし、まさに愛される秘訣だと思います。
それこそ、麺からスープまで全て自家製ということはお伺いしていました。
そうですね。
麺も毎朝自家製していますし、スープももちろん仕込んでいます。
結局、麺もスープも味も作っているラーメン店主の好みが詰まった一杯だと思うんですよね。
それがお客様に受けるか受けないかという話だと思います。
私自身、このお店で提供している硬い麺、煮干の味付けが好きだから提供していますし、自分の好みを詰め合わせた結果=こだわりだと思うんですよね。和え玉誕生に隠された秘密とは?
ー和え玉を始められたのもイチカワさんが最初だと伺いました。
うちのお店のメニューには大盛りがないんですね。
その代わりに提供し始めたのが「和え玉」でした。
カエシと油、それから薬味があればできるので、そこまで負担は大きくないんです。
大盛りを提供しない分、お客様へ少しでも還元できないかなというところがスタートですし、これからも値段などは守り続けていきたいですね。
ー今でこそ、ラーメン店で「和え玉」というメニューを見かけることは多々ありますが、その点どういったお気持ちを抱いていますか?
ぶっちゃけた話ですよ。
和え玉を始めた当初は真似されて、少し嫌だなと思うこともありました。
でも今はそのようなことは一切思わないですし、もちろん許可なんて一切必要ないです。
他のお店でも自由にやっていただきたいですよね。
今ではスーパーで和え玉が商品として並んでいることもありますからね。
和え玉目当てで来てくださるお客様もいらっしゃるので、お店の名物になっているのは私としても嬉しい限りですね。
ー和え玉目当てでいらっしゃるお客様もいらっしゃるんですね...!
はい、もちろん和え玉だけ召し上がっていくというのはNGですけどね...(笑)
ラーメンを召し上がっていただいて、量が足りないという方は和え玉を注文していただいています。好きだからこそ続けたいラーメン店主という職業
ーそれではここで少し角度を変えた質問をさせていただきます。
市川さんがもう一度進路を選択する立場に戻られたとしたら、もう一度ラーメン店主としての道を歩まれますか?
もう一度ラーメン店主としての道を歩むと思いますね。
この仕事が自分の性分にあってたから10年以上続けて来られましたし、自分自身、元々はサラリーマンとしての仕事も経験していたから尚更だと思います。
それと、ラーメン以外にも様々な業態はありますが、自分は「ラーメン」という業態にこだわると思いますね。
ラーメン以外をやるというのはあまり考えられないです。
ーラーメンに対する愛をヒシヒシと感じました。
最後に今後の市川さんご自身の目標や展望などお聞かせください。
今後は自分のペースでゆったりと、お店の営業と生活を両立できたらなと考えています。
そのために、お店として工場の設備などを抱えて、通販などにも領域を広げて営業を続けていけたらいいなって考えたりもします。
一番理想は、通販だけで生活していけたらとも思いますが、中々難しいですよね。(笑)
実際お店のスープを冷凍して家で解凍して食べてみたんですけど、不思議とお店で食べるよりも美味しく感じたんですよね。
本当に数倍くらい美味しく感じました。
だから、冷凍したラーメンを通販するというのは本当にやってみたいですよね。
ただ、これからもたくさんのお客様に来ていただけたらもちろん嬉しいですよね。
ーとても素敵な目標だと思います。
市川さん、本日はお忙しいところありがとうございました!
・プロフィール市川 幸一 店主
和え玉の元祖としても知られる「煮干中華ソバ イチカワ」
平日でも連日大行列を作り、「煮干ラーメン」の先駆け的な存在として圧倒的な支持を集める。